名古屋高等裁判所 平成9年(ネ)996号 判決 1998年6月12日
名古屋市西区康生通2丁目20番地1
控訴人
株式会社メイテック
右代表者監査役
水谷元彦
右訴訟代理人弁護士
堤淳一
同
林光佑
同
堀龍之
同
石田茂
同
石黒保雄
《住所略》
被控訴人
堀充徳
右訴訟代理人弁護士
三浦和人
《住所略》
被控訴人
関口啓貴
右訴訟代理人弁護士
堀内節郎
同
角田雅彦
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文同旨
第二 事実関係
次のとおり補正するほか、原判決5頁3行目から16頁2行目までの記載を引用する。
1 原判決6頁6行目の「当事者間に争いのない事実」の次に、「、括弧内に掲記の書証」を付加する。
2 同9頁10行目の「31日」を、「23日」に訂正する。
3 同11頁4行目の「旨の決定」の前に、「のであるから、会社がその後に取締役の報酬額を変更する」を付加する。
4 同11頁5行目と6行目との間に、次のとおり付加する。
「 なお、被控訴人らは、控訴人主張の役員関係規則の交付を受けておらず、その内容を了知していないのであるから、年度途中に取締役の異動があった場合に取締役の報酬が改定されることを了解して取締役に就任したということもあり得ない。」
5 同12頁8行目と9行目との間に、次のとおり付加する。
「 また、控訴人においては、取締役、監査役の報酬、賞与、退職慰労金等につき、役員関係規則が定められており、その第4条は、「役員報酬の対象年度は、定時株主総会の開催の翌月より1年間とし、役員の異動に基づく以外は年度途中での役員報酬の改定は行なわない。」と規定している(乙第一五号証)。被控訴人らは、控訴人の取締役に就任するにあたり、役員関係規則の交付を受け、その内容を了知したうえで、取締役に就任したものである。したがって、被控訴人らは、年度途中に取締役の異動があったときは定時株主総会前であっても取締役の報酬が改定されることを予想し、了解して取締役に就任したものであるから、この点においても、被控訴人らの取締役報酬を減額する決定は有効である。
第三 当裁判所の判断
一 次のとおり補正するほか、原判決16頁4行目から26頁5行目までの記載を引用する。
1 原判決24頁1行目の「31日」を、「23日」と訂正する。
2 同24頁4行目と5行目との間に、次のとおり付加する。
「 なお、乙第一五号証(役員関係規則)によれば、控訴人においては、取締役、監査役の報酬、賞与、退職慰労金等につき、役員関係規則が定められており、その第4条は、「役員報酬の対象年度は、定時株主総会の開催の翌月より1年間とし、役員の異動に基づく以外は年度途中での役員報酬の改定は行なわない。」と規定していることが認められ、控訴人は、右の規定を根拠として、取締役の異動があった場合には、取締役の個別の同意なく取締役会の決議により取締役の報酬を改定することができると主張する。
しかしながら、本件訴訟では、原審の段階から、被控訴人らの取締役報酬の減額につき被控訴人らが同意をしたか、また、同意しなかったとしても、任期中に取締役の異動があった場合に報酬の減額がされることを被控訴人らが予測し、予めそれを了解していたかということが争点になっていたものであるところ、右の役員関係規則は控訴人において規定し、これを所持していたのであるから、控訴人としては、原審においてこれを書証として提出し、これに基づく主張をすることは容易なはずであったのに、控訴人は、これをすることなく、当審の第2回口頭弁論期日において、はじめて右の主張をするに至ったものであるから、右の主張は時機に後れたものであることが明らかであるが、更にこの点について判断を加えるに、右の役員関係規則4条は、役員の異動があった場合には年度途中であっても取締役報酬の改定がされることをその内容とし、また右の役員の異動には、取締役の地位、職務内容の異動が含まれるものと解される。そして、被控訴人らとしては、控訴人の株主総会において被控訴人らを控訴人の取締役に選任する旨の決議がされた後、おそくとも控訴人の取締役に就任するまでの時点において、右の役員関係規則の存在及びその内容を知ることのできる立場にあったとみられるのであるから、そのことからすると、被控訴人らは右の役員関係規則の規定の内容に予め同意して控訴人の取締役に就任したものと認めるのが相当である。したがって、右の規定は、控訴人と被控訴人らとの間の契約内容となり、被控訴人らにつき取締役の異動があったときは、取締役会の決議により役員報酬の改定を行うことができると解される。
しかし、それは、右にみたとおり、被控訴人らが控訴人の取締役に就任した時点においてその内容に同意したとみることができることをその根拠とするものであるから、右の規定にいう役員の異動とは、被控訴人らが控訴人の取締役に就任した当時において予測できる範囲の異動を意味するものといわなければならない。しかるところ、前記のとおり、控訴人においては、非常勤取締役という役職は平成8年8月23日の取締役会においてはじめて設置されたものであって、従前は置かれていなかったものであり、それまで、控訴人の取締役について年度途中で役員報酬の大幅な減額を伴う取締役の異動がされた事例の存在を窺わせるに足りる証拠はない。そして、そのことからすると、役員関係規則の右規定があるからといって、被控訴人らを非常勤取締役とし、これに伴って、被控訴人堀については月額270万円、被控訴人関口については月額113万円の各取締役報酬をいずれも月額10万円に減額することは、被控訴人らが控訴人の取締役に就任した当時において予測できる程度を超えるものであったと認めるのほかない。したがって、被控訴人らが右のような異動及びこれに伴う取締役報酬の大幅な減額改定に予め包括的に同意していたと認めることはできず、右の規定を根拠として、被控訴人らに対してされた右の取締役の異動を理由とする取締役報酬の改定を、被控訴人らの個別の同意なくして取締役会の決議により行うことはできないことが明かである。」
3 同26頁3行目の「未払報酬請求」の次に、次のとおり付加する。
「(被控訴人らは、平成9年6月27日に取締役を退任しているのであるから、同月分の報酬については日割計算によるべきであるとする余地もないではないが、甲第一号証(定款)によれば、控訴人の取締役の任期は就任後2年内の最終の決算期に関する株主総会終了時に終了する旨定められ、乙第一五号証(役員関係規則)によれば、役員の報酬の対象年度は定時株主総会開催の翌月から1年間とし、その年度報酬は12分して毎月25日限り支払うとする旨定められていることからすると、取締役の任期終了月の報酬を日割計算することは予定していないと解されること、現に、前記第二で引用する原判決記載のとおり、控訴人は被控訴人らに対し、平成9年6月分の取締役報酬として各10万円を支払っていることからすると、控訴人においては、従来、取締役の任期が終了する月についても日割計算をすることなく、1か月分の報酬全額を取締役に支払っていたことが認められるから、本件未払報酬を算定するにあたっても、平成9年6月分の取締役報酬につき日割計算をする必要はないものと認める。)」
二 よって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渋川満 裁判官 河野正実 裁判官 佐賀義史)